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雇用保険制度を活用したリスキリング

岸田首相は1月の国会答弁で、「育休中のリスキリング」に言及していました。育休中に、主体的に学び直しに取り組む方々を後押しするという趣旨でしたが、世の中の育児で疲れ切っているパパママたちからは批判を含め、様々な声があがったようです。2月号でもお伝えしましたが、少子化対策を進める上でのこの発言はどのように写ったのでしょうか。

この最近よく聞くリスキリングは、「企業側が従業員に取り組んでもらうもの、今の仕事に必要とされるスキルを獲得すること」という文脈で使われることが多いようですが、働きながらキャリア形成を図る労働者の主体的な取り組みを支援するという方針は、以前から雇用保険制度の中で取り入れられていました。それが、平成10年に創設された「教育訓練給付制度」です。

この制度は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講、修了した場合にその費用の一部が支給されるというものです。今月は、公的保険からの教育訓練について考えてみます。

給付の一つに、短期間(1年以内)で学ぶことを対象とした一般教育訓練給付と特定一般教育訓練給付があります。この給付、どちらも雇用の安定や就職の促進に資する教育訓練が対象ですが、その中でも特にキャリアアップ効果の高い訓練が特定一般教育訓練給付の対象とされています。

基本的には雇用保険の被保険者期間が3年以上あること(または資格喪失後1年以内)が受給要件ですが、初めて教育訓練給付金を受ける方に関しては1年以上でよいと条件が緩和されています。

支給率は一般教育訓練が20%(上限10万円)、特定教育訓練が40%(上限10万)となっています。

特定一般教育訓練は、訓練開始の1ヶ月前までに訓練前キャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを作成して、受給資格を確認する必要がありますが、それ以外の要件はほぼ同じです。

そして、この2つの給付ですが、意外と幅広い分野の講座を網羅していて、ソムリエ講座や着付けなど、取り組みやすい講座も入っているので、ビジネス系の資格や講座に興味がない方でも、何かしら学んでみたいことがみつかるかもしれません。

一方で、近年、複数に分かれていた研修系の助成金が統合、改変され、人材開発支援助成金となりました。グリーン・カーボンニュートラル化に対応した新たなコースが新設されたり、助成限度額が引き上げられたこともあって、企業が主体となってリスキリングに取り組みやすくなってきています。

日本で主としてデジタル人材を育成するリスキリングが提唱されるようになった背景にはコロナ禍をきっかけとした働き方の変化やDXの推進があるといわれていますが、もともと、日本は少子高齢化による労働力不足という問題を抱えていたため、政府は「長時間労働の是正」「正規・非正規の格差解消」「高齢者の就労促進」を課題として、働き方改革を立ち上げています。

この課題を実現するために、企業は個々の労働生産性を上げる必要がありました。生産性をあげるために有効とされるDXの推進は、ただ、早まっただけともいえます。さらに現在、ChatGPTに代表される驚異的なアウトプット能力を持ったAIなども次々出てきており、私自身、置いていかれるのでは、と戦々恐々としていますが、今後もこの流れは続くでしょう。

大変ではありますが、今の時代生涯現役で働くには生涯学び続ける必要があるようです。所属企業のリスキリングを受けるもよし、自分で教育訓練給付を申請するもよし、全く新しいリスキリング制度が出てくるかもしれません。せっかくなので、社会が用意してくれた制度を上手に利用して学び直してはいかがでしょう。