
近年、長時間労働やハラスメントなどによるストレスなどで、精神疾患に罹るケースが増加傾向にあります。
仕事と生活のバランスを崩してしまうことで、長期間にわたる休養を迫られることになり、会社にも大きな影響を及ぼすことが予想されます。
従業員からの突然の休職の申し出は、経営者にとって、社員の健康を案じる純粋な心配とともに、現実的な課題が一気に押し寄せる瞬間でもあります。「彼にはゆっくり休んでほしい。席は空けて待っておきたい」その想いがある反面、経営者には同時に「事業を継続させ、残された社員の生活も守る」という責任もあり、多くの問題に悩まされることになります。
今月は、急な休職の申し出があった際の対応についてまとめてみます。まず経営者の頭を悩ませるのは、休職期間中に発生する金銭的な負担と、煩雑な事務手続きです。
給与の支払いがなくても、健康保険料と厚生年金保険料の「会社負担分」は免除されません。休職期間中も、会社、従業員ともに毎月数万円単位の保険料負担が発生します。それと同時に、本人負担分の徴収も問題になります。
給与がないため天引きができず、会社は休職中の従業員に毎月請求書を送るか、振り込みを依頼しなければなりません。体調がすぐれない中、請求の催促をしても良いのかというジレンマもありますが、公的保険制度は、いずれ本人に帰属するものと考えると、本人に負担をしてもらわなければならないものとなります。しかし、万が一支払いが滞った場合の対応や、住民税を給与天引きから普通徴収(本人払い)へ切り替えるタイミングの判断など、経理・総務担当者の負担は確実に増大します。
そのために健康保険の傷病手当金の請求を行うことになりますが、医師の証明を待って申請するため、振込までにタイムラグが生じることへの不安や不満が、なぜか会社側に向けられてしまう理不尽さが発生することもありますので、対応に苦慮する経営者の方も多いことと感じるところです。
また、事業は継続していきますので、欠員が生じた代替要員の採用という難題に直面します。休職期間は事業主によりまちまちですが、決められた期間内に退職の申し出がある場合なども考えられるため、期間限定の社員を採用することは容易ではありません。
ただでさえ人手不足が叫ばれる時代です。正規雇用でさえ採用が難しい中、専門スキルを持った代替要員を即座に見つけることは、なかなかの離れ業といっても過言ではないでしょう。
結果として選択せざるを得ないのが、残ったメンバーでなんとかするという選択肢です。しかし、ここには長時間労働というリスクを抱えざるを得ない状況も発生してしまう可能性が高いですので、負荷が長く続けば疲弊してしまいます。過重労働による連鎖的なメンタル不調や、主力メンバーの離職などのプラスされたリスクに対し、どう対峙していくのかが大きな課題となってきます。
ここまでリスクと悩みを並べましたが、視点を変えれば、公的保険制度への深い理解は、経営者にとって強力な武器にもなります。傷病手当金の申請手続きは最速で行う、社会保険料の本人負担分については、復職後の分割払いも相談に乗るといった具体的なセーフティネットの活用法を提示できれば、それは従業員にとって給与以上の安心感となります。
人手不足時代における「人材の確保と定着」は、単に人を集めることではありません。
公的保険制度をうまく活用しながら、不測の事態に沿えるルール作りを検討していただきたいと考えます。