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傷病手当金と労災をどう使い分けるか
「健康経営」という言葉をお聞きになったことはありますでしょうか。ここ近年の労務管理の一つとしても話題になっている項目です。かつては、どれだけ働いてどれだけ企業に貢献できるかが目標とされた時代もありましたが、今は長時間労働を避け、健康被害を最小限に抑えようとする考え方が主流になってきているのはお感じのことと思います。健康経営とは、従業員の健康管理や健康増進の取り組みを「投資」と捉え、経営的な視点で考えて戦略的に実行する新たな経営手法であるとしています(東京商工会議所ホームページより引用)。
こういった取り組みが進む一方で、本人の意思とは反対に病魔に襲われてしまったり、精神的な負担により仕事を離れなければならなくなったりする状況も多くあります。
今月は、病気やケガによって働けなくなった場合の補償でもある傷病手当金を中心にどのように対応すべきかを考えてまいります。
仕事をしている方が業務中にケガをすれば労災の適用を受けられることがあります。業務災害や通勤災害などの給付を受けることでカバーできます。しかし、私傷病となると労災の適用は受けられず、健康保険の傷病手当金が休業補償としてはポイントになります。
傷病手当金は、協会けんぽや健康保険組合に加入している方が、病気やケガなどで働けない場合に給付を行ってくれる制度です。具体的には、以下の要件を満たす必要があります。
①業務外が原因となる病気やケガであること、②働けない状態と診断されること、③連続する3日間を含んで働けないこと、④休んだ期間について給与の支払いがないことが要件となります。
中長期的に仕事を休まなければならない時の休業補償として有効な公的保険です。
実際にいくらくらいもらえるのかというと、あくまで概算になりますが給与1日分に換算した場合約3分の2が支給額になります。細かい計算については、協会けんぽなどのホームページで確認できます。
また、職域国保(医師国保や建設国保など)の場合は傷病手当金が支給されるケースもありますが、自営業の方が加入する市町村国保には給付がないことが多いのでご注意ください。
業務中、業務外に限らず、働けなくなった理由については精神疾患が増加傾向にあります。この原因がどこにあるかで申請先が変わってきます。労災に対しての精神疾患の申請件数も増加しており、ここ10年間のデータを見てみても10倍近い件数で、認定された件数はさらに多いのですが、認定率という点で見ると減少傾向にあることも事実です。このデータからわかることは、業務に起因するものとして申請する傾向にはあるものの、認められない事象も多くあり、さまざまな角度からの判定がなされているということになります。
実務上では、労災と傷病手当金を同時申請することもあります。傷病手当金は要件が満たせば支給決定されますが、労災は因果関係などの調査に時間がかかるため、決定されるまでの間の休業補償として一旦傷病手当金を申請しておくということです。労災の認定が降りた際には、受給した傷病手当金を全額返金しなければならないなどの手間が増えますが、治療費の負担もなくなり休業補償も増えることから同時申請するケースはあります。しかし、認定率が低いことが表しているように、簡単には認められるものではないということをご理解いただければと思います。
また傷病手当金は、2022年1月から改正されることが決まっています。最近ではがん治療などで入退院を繰り返すことも多く、それらに対応する制度が望まれていましたので、「実際に支給を受けた期間を通算して1年6ヶ月」と改正する案となっています。コロナ禍による陽性者数の増加の勢いも凄まじく、まん延から「遷延」という表現も使われ長くなっていることがわかります。感染により長期化する場合には傷病手当金が有効となりますので、今一度制度の確認を行ってまいりましょう。