先日、ゲーム会社の社員がパワーハラスメント(以下「パワハラ」)を受けていたことを理由として、元上司の頭を消火器で殴り、現行犯逮捕された事件がありました。現時点では、本人が会社にパワハラを訴えたが認められず、会社側は本人を別部署に異動させるという措置をとっていたというところまで報道されています。パワハラがあったか否か、実際のところは不明ですが、パワハラは言った、言わないなどが原因となることからパワハラ対応の難しさを感じさせる事件でした。
ではなぜ、こういった事態が発生してしまうのか、どのようなものがパワハラにあたるのかを考えてみましょう。
令和元年6月改正の労働施策総合推進法に基づいて、厚生労働省から発表された指針(パワハラ防止指針)によると、政府はパワハラについて以下のように定義しています。
職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいうとなり、ここで判断が難しいのは②と③になります。
パワハラ指針では、どのようなものがパワハラにあたるのかについて、①暴行・傷害、②ひどい暴言などの精神的な攻撃、③仲間はずし・無視などの人間関係切り離し、④明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制などの過大な要求、⑤能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることの過小な要求、⑥私的なことに過度に立ち入ることなどの個の侵害の6つの類型が例示されています。
そのうち、暴行や人格否定発言などは通常該当すると判断できそうですが、そこまでに至らない④から⑥の言動の場合、業務上の適正な指導との線引きが容易ではありません。業種や企業文化の影響を受けるという側面があるためです。
また、世代によって「指導」の認識が根本的に異なっていることもあるでしょう。その場合、自分の世代がこうやって指導されたから、部下に対しても同じように、というのが通用しない可能性があります。
労働施策総合推進法の改正で、企業にパワハラ防止のため、社内のルールや相談体制の整備など、雇用管理上必要な措置を講じることを義務づけられました。そのため、相談窓口の設置などに加え、パワハラ防止のための管理職研修を行う会社が増えていましたが、最近では非管理職(一般社員)研修に注目する会社もでてきたようです。パワハラという言葉だけが一人歩きし、不正確な情報や偏った情報に基づいて解釈をする社員が出てきたためです。
厳しい指導を受けたときに、それが適切な範囲内の指導であっても、パワハラと捉える人がいれば、職場は混乱しますし、実際に上司がパワハラととられるのを恐れて萎縮し、必要な指導を躊躇してしまうといった事態も発生しています。
誰かの言動を不快に感じたならば、一度立ち止まって本当にパワハラなのか考えてみましょう。その際の基準は、自分基準でも自社基準でもなく、「社会通念基準」です。その上でパワハラだと判断したのであれば、社内の相談窓口に相談してください。社内で相談することに抵抗があるのなら、行政の相談窓口を利用してもいいかもしれません。
現在、パワハラ以外にも性別によるハラスメント、妊娠に関わるハラスメントに加え、性的志向や性自認といった内心によるハラスメントと、職場環境は複雑化してきています。パワハラの被害者にも加害者にもならないために、お互いに相手を尊重しあえる風土を作っていきましょう。